黒潮と巡る魂のロードトリップ 第6回

おう、待たせたな。

石畳の古道で、身も心も清められたか?

だが、旅はまだ終わらねえ。海沿いの道を離れ、俺たちは再び、紀伊半島の深く、険しい「懐(ふところ)」へと分け入っていく。

ハンドルをしっかり握れよ。

ここからの道は、細く、曲がりくねっている。

だが、そのカーブを抜けた瞬間に現れる景色は…息を呑むぜ。

「黒潮と巡る魂のロードトリップ」、第六夜。

そこにあるのは、自然が作った絶景じゃない。

人間が、何百年もかけて、血と汗で山肌に刻み込んだ、巨大な「彫刻」だ。


第6回:天空の棚田

~三重・丸山千枚田(まるやませんまいだ)、土と石垣の執念~

1. 秘境への道(アプローチ)

熊野市の海沿いから、国道311号線を山側へ。

この道は、かつて銅山で栄えた歴史ある道だが、今は静かな山道だ。

「本当にこんな奥地に、人が住んでいるのか?」

そう不安になるくらい、カーブを何度も曲がる。

2月の山は静かだ。

枯れ木の間から、冷たい冬の日差しが差し込んでくる。

そして、視界が一気に開けた瞬間、目の前に「それ」は現れる。

斜面の上から下まで、ビッシリと刻まれた、無数の段差。

「丸山千枚田」だ。

2. 風景の独白(モノローグ)

見ろ。これが、人間の「執念」だ。

標高差160メートルの急斜面に、なんと1340枚もの田んぼが重なっている。

一枚一枚は小さい。中には畳数畳分しかねえような、小さな田んぼもある。

「千枚田」って言うが、実際には千枚以上あるんだから驚きだ。

2月だから、稲穂の緑はない。

あるのは、耕されるのを待つ「黒い土」と、それを支える強固な「石垣(いしがき)」だ。

だがな、冬こそ、この棚田の「骨格」が見えて美しいんだ。

幾重にも重なる曲線(カーブ)が、まるで等高線のように山肌を彩っている。

夕暮れ時、沈んでいく太陽が、この無数の段差に影を落とす。

その陰影の美しさといったら…言葉が出ねえよ。

ここは、日本で一番美しい「土のアート」だ。

3. 土地の哲学(フィロソフィー)

ここの哲学は、「不合理を愛する心」だ。

考えてもみろ。

こんな急斜面で、機械も入らない小さな田んぼを1300枚も維持する。

現代の「効率」や「経済性」だけで考えたら、真っ先に切り捨てられる場所だ。

実際、一度は荒れ果てかけたらしい。

だが、地元の人々はここを守った。

なぜか?

それは、ここが彼らの「先祖が生きた証」であり、この風景こそが「故郷の誇り」だからだ。

「損得」じゃねえ。「意地」だ。

便利さのために大切なものを捨ててきた俺たち現代人に、この石垣は問いかけてくる。

「お前には、損得抜きで守り抜きたい『何か』があるか?」とな。

4. 旅人の休息(メシと宿)

<今夜のメシ>
山深いこの地に来たら、「ジビエ(野生鳥獣肉)」だ。紀伊半島の山々は、鹿や猪(イノシシ)の宝庫だ。冬は狩猟のシーズンでもある。

味噌仕立ての「ぼたん鍋(猪鍋)」か、鹿肉のロースト。山の命をいただく。その力強い味が、冷えた体を芯から温めてくれる。

地元の地鶏「熊野地鶏」の炭火焼きも、弾力があって最高だぞ。

<今夜の宿>
この近くに、とっておきの秘湯がある。「湯ノ口温泉」だ。

かつての鉱山跡にある温泉で、なんと「トロッコ電車」に乗って宿(入鹿温泉ホテル瀞流荘)へ移動できるんだ。

ガタゴトと揺れる小さなトロッコ。まるで映画のワンシーンだろ?

湯は、源泉掛け流し。飾り気はないが、湯治場のような雰囲気が、旅の疲れを吸い取ってくれる。


どうだ?

人間の手が生み出した、圧倒的な風景。

冬の棚田で、土の匂いを嗅いだら、いよいよ旅も終盤だ。

次は、人間が空を歩くために架けた、巨大な橋を渡りに行くぜ。

(第一部 第7回「日本一広大な村の吊り橋 ~奈良・十津川村、揺れる板の上で試される度胸~」へ続く)

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