おう、よく来たな。
三重の棚田から、ハンドルを山側へ切れ。
紀伊半島のド真ん中、神々さえも迷い込みそうな、深い深い山岳地帯へ突入するぞ。
そこは、コンビニはおろか、信号さえも稀な、日本で一番「デカくて」、一番「不便」な村だ。
「黒潮と巡る魂のロードトリップ」、第七夜。
奈良県・十津川村(とつかわむら)。
人間が空を歩くために架けた、巨大な橋を渡りに行くぜ。
第7回:日本一広大な村の吊り橋
~奈良・十津川村、揺れる板の上で試される度胸~
1. 秘境への道(アプローチ)
丸山千枚田から、熊野川沿いに国道168号線を北上する。
この道は、紀伊半島の「大動脈」だが、同時にとんでもない「山道」だ。
右も左も、見上げるような山、山、山。
その谷間を縫うように、エメラルドグリーンの熊野川が流れている。
十津川村は、日本一面積が広い村だ(北方領土を除く)。
東京23区よりもデカいのに、平地はほとんどない。
走っても走っても、村を出ない。
その「果てしなさ」に不安になってきた頃、頭上に巨大な鉄線が見えてくる。
到着だ。ここが、秘境のランドマークだ。
2. 風景の独白(モノローグ)
車を降りて見上げろ。
「谷瀬(たにぜ)の吊り橋」。
長さ297メートル、高さ54メートル。
かつては「日本一長い生活用吊り橋」と呼ばれた怪物だ。
下から見てもデカいが、実際に渡ってみろ。
足元は、木の板だ。隙間から、遥か下の砂利河原が丸見えだ。
2月の風が谷を吹き抜けると、橋はキーキーと音を立てて揺れる。
観光用のしっかりした橋とは訳が違う。
地元のおばあちゃんが、カブ(バイク)で走り抜けることもある生活道路だ。
だが、初めて渡る人間には、一歩一歩が「恐怖」との戦いだ。
橋の真ん中で立ち止まり、深呼吸してみろ。
360度、迫り来る山々。
自分が鳥になったような、あるいは空中に放り出されたような、不思議な浮遊感に包まれるはずだ。
3. 土地の哲学(フィロソフィー)
十津川の哲学は、「自立と結束の精神」だ。
この巨大な橋、実は昭和29年に、村人たちが「自分たちの金」を出し合って造ったんだ。
行政に頼んでいたら、いつになるかわからない。
「橋がねえなら、俺たちで造ればいい」
家一軒建つほどの大金を、各家庭が出資した。
この「意地」と「団結力」が、この村を支えている。
そして、十津川郷士(ごうし)の歴史も忘れてはいけねえ。
幕末、天皇を守るために立ち上がった誇り高き侍たちだ。
不便な山奥だからこそ、人は助け合い、自分たちの力で道を切り拓く。
揺れる橋の上で足が竦(すく)むのは、俺たちが普段、あまりに「守られすぎた」環境にいるからかもしれねえな。
4. 旅人の休息(メシと宿)
<今夜のメシ>
ここに来たら、「あまご」や「鮎」の塩焼きだ。清流で育った川魚は、臭みがなく、香ばしい。
そして、十津川名物の「柚子(ゆず)」を使った料理。柚子味噌を塗ったこんにゃくや、柚子の香りがする蕎麦。素朴だが、山の恵みが凝縮されている。
<今夜の宿>
十津川村は、日本で初めて「源泉かけ流し宣言」をした村だ。
村内の温泉(十津川温泉、上湯温泉など)は、すべて沸かさず、循環させず、塩素も入れない「本物の湯」だ。
「十津川温泉」の宿を取れ。少し茶褐色で、石油のような香りがする独特の湯。冷え切った体に、地球の熱が直接入ってくる感覚だ。
川の音を聞きながら、本物の湯に浸かる。…これぞ、秘境旅の極みだ。
⚠️ 裕次郎のルート警告
十津川から次の目的地(静岡)へ向かうには、一度、奈良の市街地(五條市)方面へ抜けるか、あるいはまた山道を戻って三重方面へ出るか、長い移動になる。
特に冬の国道168号線は、路面凍結が頻繁にある。
「谷瀬の吊り橋」周辺も雪が積もることがあるから、絶対に無理な運転はするなよ。
ここを無事に抜けたら、いよいよ紀伊半島を脱出し、東へ向かうロングドライブだ。
さあ、山深い村で「本物の湯」に癒やされたら、次は一気に静岡へワープだ。
湖の上に浮かぶ、不思議な「駅」が待っているぞ。
(第一部 第8回「湖上の秘境駅(静岡・奥大井)」へ続く)
九州・糸島に住む昭和77年8月21日生まれの青年。セネカや老子、石原裕次郎さんを愛好。


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