おう、待たせたな。
奈良の十津川、あの深い山と吊り橋の緊張感は、あんたの「運転勘」を研ぎ澄ませたはずだ。
さあ、ここからはロングドライブだ。
紀伊半島の山を抜け、名阪国道や東名阪、伊勢湾岸道あたりをぶっ飛ばして、一気に東へ。
愛知を抜け、静岡に入る。
目指すは、日本有数の暴れ川「大井川」の源流に近い、山奥のダム湖だ。
そこには、鉄道マニアじゃなくても息を呑む、現実離れした「駅」がある。
「黒潮と巡る魂のロードトリップ」、第八夜。
湖の上にポツンと浮かぶ、不思議な孤島へ案内しよう。
第8回:湖上の秘境駅
~静岡・奥大井(おくおおい)、赤い鉄橋が繋ぐ異世界~
1. 秘境への道(アプローチ)
新東名高速「島田金谷IC」を降りて、大井川沿いに北上する。
最初は広かった川幅も、山奥へ進むにつれて狭くなり、周りは急峻な山と、美しい「茶畑」だらけになる。
静岡だなあ、と感じる景色だ。
だが、道は甘くない。
車一台がやっとの細い山道を進んでいくと、突如、エメラルドグリーンの湖が現れる。
「接岨湖(せっそこ)」というダム湖だ。
車を「不動の滝」近くの駐車場に停めて、そこからは少し歩く。
トンネルを抜け、階段を登り、ふと視界が開けた瞬間…
あんたは、自分の目を疑うはずだ。
「なんだ、あれは?」
2. 風景の独白(モノローグ)
湖のド真ん中に、小さな半島が突き出している。
いや、島か?
その「島」に向かって、真っ赤な鉄橋が架かり、その上にポツンと、駅がある。
「奥大井湖上駅(おくおおいこじょうえき)」。
まるで、ファンタジー映画の世界だ。
あるいは、宮崎駿のアニメに出てきそうな風景だ。
周りに民家はない。道路もない。
あるのは、静まり返った湖と、山々と、この赤い鉄橋だけ。
遠くから「ポーッ!」という汽笛が聞こえる。
大井川鐵道のアプト式列車だ。
赤い小さなおもちゃのような列車が、ゆっくりと鉄橋を渡ってくる。
ガタン、ゴトン…。
谷間に響くその音だけが、ここが「現実」だと教えてくれる。
「秘境駅」と呼ばれる場所は多いが、これほど「孤立」し、かつ「美しい」駅は、日本中どこを探してもねえだろうな。
3. 土地の哲学(フィロソフィー)
ここの哲学は、「無駄の中にある贅沢」だ。
この駅、元々はダム建設のために資材を運ぶ路線だった。
今や、乗降客はほとんどが観光客か、秘境マニアだ。
「移動手段」として考えれば、遅いし、不便極まりない。
リニアモーターカーが地下深くで「速さ」を競っている時代に、ここは真逆を行っている。
だが、ここに来た人間はみんな笑顔になる。
なぜだ?
それは、「何もない場所で、ただボケーっと列車を待つ」という時間が、現代において最高の「贅沢」だからだ。
「早く着くこと」だけが価値じゃない。
「そこに行くまでの過程」や、「不便さを楽しむ心」。
この湖上の駅は、効率主義に疲れた俺たちに、「たまには止まってみろよ」と語りかけてくる。
4. 旅人の休息(メシと宿)
<今夜のメシ>
静岡に来たら、「静岡おでん」だ。真っ黒な出汁(だし)に、牛すじや黒はんぺん。そして、最後に「ダシ粉(魚粉)」と青のりをかけて食う。
山奥の千頭(せんず)駅周辺や、昔ながらの駄菓子屋のような店で、串に刺さったおでんを食う。素朴で、懐かしい味がするぜ。
あるいは、この地域特有の「とろろ汁」。麦飯にかけてズルズルッとかき込むのも、旅の滋養になる。
<今夜の宿>
この奥大井に来たら、泊まる場所は一択だ。「寸又峡(すまたきょう)温泉」。
ここの湯はすごいぞ。「美女づくりの湯」なんて言われるが、男が入っても最高だ。湯船に入った瞬間、肌が「ヌルヌル」するほど、トロトロの湯だ。
そして、宿に荷物を置いたら、歩いて「夢の吊り橋」に行け。十津川の橋とはまた違う、チビりそうになるくらい美しい青い水面にかかる橋だ。
世界の「死ぬまでに渡りたい徒歩吊り橋」にも選ばれた場所だぜ。
どうだ?
湖の上に浮かぶ駅と、トロトロの温泉。
長距離ドライブの疲れも、ここなら癒やせるはずだ。
さて、山奥の秘境を満喫したら、いよいよ旅はクライマックスだ。
山を下り、再び海へ。
伊豆半島の最南端で、太平洋の終わりを見るぞ。
(第一部 第9回「伊豆の最南端(静岡・石廊崎)」へ続く)
九州・糸島に住む昭和77年8月21日生まれの青年。セネカや老子、石原裕次郎さんを愛好。


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