AI裕次郎と巡る世界の港 第5回

おう、待たせたな。

サンフランシスコの「霧」は晴れたか? あの「自由」な風は、あんたの心の帆をパンパンに膨らませてくれたようだな。

よし、舵を切れ!

俺たちの船は、今度は赤道を越える。

太平洋から大西洋へ、パナマ運河を抜けてもいいし、マゼラン海峡を回るタフな航海でもいい。

とにかく、目指すは「南米」だ。

「AI裕次郎と巡る世界の港」、第五夜。

今夜は、太陽が情熱的なのに、なぜか「哀愁」の匂いがする港だ。


🚢 第5回:タンゴの波止場

~ブエノスアイレス、”望郷”がステップを踏む~

1. 入港 ~今夜の汽笛は、何を語る~

北半球とは、何もかもが逆だ。

太陽の通り道、風の匂い、そして、渦巻く水の流れ。

俺たちの船が、茶色く濁った「ラ・プラタ川」の大河口を進んでいくと、ヨーロッパと見紛うような、重厚な街並みが見えてくる。

ブエノスアイレス。「良き空気」という名の、アルゼンチンの首都。

「南米のパリ」…誰が言ったか知らねえが、確かに、表通りは洒落(しゃれ)ている。

だがな、俺たち船乗りが錨(いかり)を下ろしたいのは、そんな「お上品な場所」じゃねえ。

もっと河口に近い、ペンキの匂いと、男たちの汗の匂いが混じり合う「港」…ボカ地区だ。

そこは、夜毎(よごと)、あの「タンゴ」のむせび泣くようなメロディが流れてくる場所なんだ。

2. 錨を下ろして ~その港が背負うドラマ~

この港は、19世紀後半、ヨーロッパから「夢」を求めてやってきた移民たちで溢(あふ)れ返った。

特に、イタリアやスペインからの貧しい連中だ。

彼らは、このボカ地区の波止場で荷揚げ人足として働き、トタンで造った安普請(やすぶしん)の家に住み着いた。

「ボカ」の建物が、やたらカラフルな色に塗られているのを知ってるか?

あれは、「オシャレ」でやってるんじゃない。

船の「ペンキの残り」をタダで貰ってきて、自分たちの家に塗ったのが始まりだ。

だから、色がチグハグなんだ。

あれは、彼らの「貧しさ」と「たくましさ」の象徴なんだぜ。

そして、彼らは夜になると、安酒場で、故郷(ヨーロッパ)を想って泣いた。

「帰りたい。だけど、帰る金も、顔もねえ」

その「望郷の念(ノスタルジー)」と、日々の「鬱憤(うっぷん)」、そして「男女の駆け引き」。

そのすべてが、あの波止場で混ざり合い、一つの「音楽」と「ダンス」を生み出した。

…それが、「タンゴ」だ。

3. 波止場の哲学 ~「本物」の背中~

今夜の哲学は、重いぞ。

「哀しみ(望郷)を、情熱で塗り潰す哲学」だ。

タンゴってのは、ただの「社交ダンス」じゃない。

あれは、男と女の「戦い」であり、「会話」だ。

激しくステップを踏み、体を密着させ、相手を支配し、あるいはされる。

なぜ、あんなに「官能的」で「攻撃的」なのか?

それは、故郷を失った移民たちの「哀しみ」が、深すぎるからだ。

ただ泣いているだけじゃ、この「クソッタレな現実」は乗り越えられない。

だから、その「やり場のないエネルギー」を、異性への「情熱」に、あるいは男同士の「意地」に、強引に「昇華」させたんだ。

「泣くくらいなら、俺は踊る」

「絶望するくらいなら、俺は女を口説く」

ボカ地区の古い酒場(タンゲーリア)で、今も踊り続ける老夫婦の、鋭い眼光。

あれこそが、100年の「哀しみ」を背負った、「本物」のステップだ。

4. 船乗りの酒場 ~ロマンの寄港地~

さあ、今夜は、俺たちも「タンゲーロ(タンゴを踊る男)」の気分だ。

<この港で観たい映画>
アル・パチーノの『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』(1992年)だ。

盲目の退役軍人が、見ず知らずの女性を誘い、あの有名な『ポル・ウナ・カベーサ(首の差で)』に乗って、見事にタンゴを踊るシーン。

あれこそが、タンゴの「粋」と「危険な色気」のすべてだ。

<この港で聴きたい曲>
アストル・ピアソラ。こいつしかいない。「タンゴの革命児」と呼ばれた男だ。

彼が作曲した『リベルタンゴ(Libertango)』か、むせび泣くような『オブリビオン(忘却)』。

伝統的なタンゴが持つ「哀愁」に、「ジャズ」の革新をぶち込んだ。この街の「混沌」と「哲学」が、全部そこにある。

<今夜の夜食>
決まってる。「アサード(アルゼンチン風BBQ)」だ。牧畜の国だからな。

デカい「肉」の塊を、炭火で豪快に焼いて、岩塩だけで食らう。そして、酒は、もちろん「マルベック(赤ワイン)」だ。

濃厚な肉と、濃厚な赤ワイン。これが、あの情熱的なタンゴを生んだ「エネルギー源」だ。


どうだ? 「哀愁」も、ここまで「情熱的」だと、いっそ清々しいだろう。

故郷を想う心は、いつだって男を強くする。

さて、ヨーロッパの移民が造った港も見た。

旅も、いよいよ終盤だ。

最後は、俺たちの「アジア」に帰るぞ。

だが、日本じゃない。

100万ドルの夜景が、俺たちを待っている。

(第6回「眠らぬネオンの海(香港)」へ続く)

コメントを残す

知性の交差点をもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む